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ホリスティックヘルスを目指して 

T:あなたの味覚は大丈夫ですか?


皆さん初めまして。しばらくこの欄を担当させていただく事になりました愛場です。

「健康」についての話ですが、一般の健康書にはあまり書かれていない話をさせていただきます。副題にある「ホリスティック(Holistic)」という耳慣れない言葉がキーワードです。この言葉は、日本語に適当な訳がありません。強いて言えば、「全人的」となりますが、日本語でいうイメージと少しニュアンスが違います。このコラムシリーズを最後までお読みいただければ何となくおわかりいただけると思いますので、ここでの説明はこれだけにしておきます。


さて、私の専門は耳鼻咽喉科です。特にその中でも嗅覚(におい)や味覚(あじ)の障害を20年近く研究してきました。実は最近、「味がわからない、おいしくない」といって病院を受診される、「味覚障害」の患者さんが増えてきています。18年前の調査では、日本で14万人くらいと推定されていたのですが、最近の同じ調査では23万人と言われています。さらには、自覚症状の全くない健康な成人でも、半数近くの人に味覚の低下が認められています。あまり知られてはいませんが、今の日本人に蔓延している病気、それが「味覚障害」なのです。ではなぜふえてきているのでしょうか。


「味覚障害」の起こる原因ですが、一番多いのは必須ミネラルの一種である「亜鉛」の不足です、それ以外には薬の副作用、鉄欠乏性貧血、糖尿病や肝臓、腎臓の障害、うつ病などの心因性のものなどがあります。そしてこれらの原因は複雑にからみあっていることが多いのです。


亜鉛の不足で味覚障害が起こるのは、亜鉛が味を感じる細胞の再生と維持に関係していて、不足すると味を感じる細胞の数が減ってしまうためです。亜鉛が不足するのは、食生活に問題があるからです。いわゆるジャンクフードと呼ばれる、カロリーと脂肪分ばかり多く、ビタミン、ミネラルの少ない食品は、亜鉛の不足をもたらします。また、多くの食品に含まれる食品添加物は、亜鉛の吸収を邪魔し、逆に体の外に出してしまう働きがあります。また自然環境の変化により、野菜などに含まれるミネラルの量そのものも減ってきており、亜鉛もその例外ではありません。


味覚が低下してくると、知らないうちに濃い味付けのものがほしくなり、塩分や糖分のたくさん入った食品、加工食品を好むようになり、偏食になりがちです。それがまた、亜鉛の不足をもたらす原因になるわけです。これが長期化してくると、糖尿病や高血圧、肝臓や腎臓の障害にもつながってきます。これらの生活習慣病は、それ自体も味覚障害をおこしますが、それよりも問題なのはこれらの病気のために使われる薬が、副作用で亜鉛の吸収を邪魔したり、味覚障害そのものを引きおこす事があるからです。特に血圧を下げる薬を長期にわたってのんでいる人は要注意です。


味覚障害は高齢者に多くみられます。高齢者の場合、もともと細胞の再生力が低下しているところへ、慢性的な亜鉛不足、高血圧などの病気、そしてその薬の副作用などの影響が重なって味覚障害を起こしてしまうのです。しかし、高齢者の味覚障害には実はさらに重要な問題があります。それは、孤独なお年寄りが増えてきているということです。一人暮らしの食事は、ついインスタントな食事に走りがちで、色んな栄養素をバランスよく整えることは難しく、亜鉛をはじめとするビタミン、ミネラルが不足がちになります。

 

 さらにおいしさというものは、単に味覚だけではなくその雰囲気や環境に大きく左右されます。家族や友人と楽しく食べればおいしさも倍増するのですが、一人で黙々と食べているときは、よほどおなかが空いていない限りおいしさを感じません。孤独であることは、現代人に増えてきている「うつ」を始めとする心の病とも大きな関係があります。そして心の病が食生活を乱し、それがまた味覚障害を起こすという悪循環に陥っています。


「おいしくないんです・・」と言って、病院をおとずれる高齢者のみなさんを診ていると、栄養素、生活習慣病、薬の濫用、地球の自然環境問題、心の病、独居老人、人間関係といった多くの問題が見えてきます。つまり、「味覚障害」ひとつをとってみても、単に亜鉛が足りないからそれを補えばいいというものではなく、その人をとりまく広い視点からものを見てゆく必要があります。このような見方、考え方がホリスティック医学といわれるものです。

 

 

U:健康とは?


前回は、私の専門領域である「味覚障害」を例にとって、広い視点からものを見てゆくホリスティックな考え方について簡単に説明いたしました。ひとつの病気をとってみても、「病気には何か原因があって、それを取り除けば治る」という単純なものではないことがおわかりいただけると思います。病気が起こるには、例えば細菌などの外的な要因だけではなく、その人の体力、体質、心、物の考え方、生活環境、社会的要因など、さまざまな因子が関係しています。


近代科学の発達に伴い、医療はともすれば、「人間の体という精密な機械の故障をどのように修理するのか?」という考え方に支配されてきたきらいがあります。もちろん、その結果として、歴史上かつてない長寿社会時代が訪れ、過去において人類が悩まされた感染症を中心とする多くの病気がよくコントロールされるようになりました。しかし、現代の病気は、がん、アレルギー、生活習慣病、心の病などで代表されるように、今までの考え方では単純に治らない病気が多くなっています。


ホリスティック医学では、単に病気の原因はこれということにとどまらず、広い視野をもった、人間まるごと、地球まるごとという考え方をします。つまり、人間を単に体だけではなく、心、気、霊性(スピリチュアリティ)の有機的統合体として捉えます。


実は、心と体というのは非常に密接な関係にあります。例えば、胃潰瘍などのように、心のストレスにより、体に病気ができる場合はいくらでもあります。実は、がんもそうだといわれています。一方「プラセボ(偽薬)効果」といわれるように、痛み止めといって、実は効果のない薬を与えても、何割かの人の痛みはそれでなくなってしまいます。

 

 サイモントン療法というがんの治療法は、がん細胞がこわれてゆくというイメージをすることにより、実際にがんが小さくなるという効果をあげています。心と体の密接な関係。そのしくみはまだよくわかっていませんが、心の状態が体の病気を作り、また体の状態が心に影響を与えるというのは確かなことです。医療が、体という精密機械の故障を治すのではなく、心の部分を癒す必要があることはおわかりいただけると思います。


一方、霊性という言葉には、宗教的色彩を感じられる方が多いかと思います。WHO(世界保健機構)では、健康の定義を、「健康とは、身体的、精神的、社会的に満足のいく動的な状態をいい、単に疾病や病弱がみられないことではない。」としていますが、そこにさらに「霊的(spiritual)」という言葉を付け加えるかどうかが議論となりました。

 

 昨今はスプリチュアルブームのようですが、日本語の「たましい」、「霊魂」といった表現をしてしまうと、どうしてもそういう目に見えないもの、あの世といったものがあるのかないのかといった議論になってしまいがちです。そうではなくて、スピリチュアリティーとは、今生きているその人の生きがい、人生観、価値観、死に対する考え方などの現われと考えていただければよいかと思います。そうすれば、スピリチュアルな健康というのもおわかりいただけるのではないでしょうか。


病気であるということは一つの健康状態であって、病気と健康の境界というものがあるわけではありません。全ての人はなにがしかの身体的、精神的、社会的、霊的な問題をかかえているわけで、完全な健康というのはありません。そんな中でよりよい健康状態を目指してゆくのが医療の役割です。


ホリスティックな視野でものを見てゆくと、単に一人の人だけではなく、社会の健康にも目が向けられるようになります。単に医療だけではなく、食、農、地球環境、経済、教育・・・といったあらゆる分野が健全になって、初めて人類まるごと、地球まるごとが健康になると言えるのではないでしょうか。ひとりひとりの健康は、地球、宇宙全体のまるごとの健康に支えられています。

 

 単に、「自分ひとりの病気が治ればよい、体のここさえよくなればよい」という考え方では、決して健康な社会はやってきません。その病気をもたらした深い原因に気づくことが必要です。これからの医療は、単に病人の身体を治すことだけを考えるのではなく、ホリスティックな視野でみなければ立ち行かなくなるだろうと思われます。

 

 

V:自然治癒力とセルフケア

 

 病気はなぜ治るのでしょうか。例えば誤って手にけがをしたとします。少し血がでますがやがて止まり、かさぶたができ、たいていの場合何日かして傷はきれいになり、自然に元の形に治ります。もう少し大きな傷、例えば手術をした場合でも、あとでしていることは、その傷を糸で縫い寄せるだけです。そのあと傷が閉じるのは、あくまでその人の体が元々持っている傷を治す力によるものです。


かぜをひいた場合も同じです。最近でこそウイルスに効く薬が出来ましたが、昔から多くの場合は、かぜは薬をのまなくても勝手に治っていました。ウイルスが入ってきたときに、体はそれに反応して色んな症状を出しながら、ウイルスを排除し、元の健康体に戻ってゆきます。このように病気が治ってゆくのは、多くは人体の持っている自然治癒力によるものです。医療の力もありますが、それはむしろ治るための補助手段であり、きっかけ作りと言えます。

 

 例えば風邪を引いた時、悪いものを食べた時には、熱、咳、下痢といった症状が出ます。私たちは、ついこれらの症状そのものを病気と思いがちですが、実は症状は病気が治ってゆくための体の反応であり、自然治癒力の現れなのです。熱は、体内でウイルスなどが増えないようにする為の反応、咳や痰は気管の中にいる細菌を外に出してきれいにしようという反応、下痢は腸の中の毒素や悪い菌を早く体外に出して元に戻そうとする反応なのです。


ですから、病気の症状が現れた時に、むやみやたらとすぐに症状を取り除こうとするのは、自然の治癒力を妨げていることにもなる事を知っておいてください。軽い感染症などでは、解熱剤などを飲まないで、暖かくして熱を出し切ってしまうほうが早く治る場合があります。


とはいえ、放っておくと、治らない病気もありますし、危険な状態になる事もあります。本当に薬が必要か、手術が必要かといったことを見極める事と、治る為のきっかけを作り、自然治癒力を援助することが本来の医療の役割なのです。

 

 薬にも、解熱剤や鎮痛剤のような対症療法としての薬、菌を殺す抗生物質のような原因に対しての薬のほかに、身体の自然治癒力を高める薬があります。これには、いわゆる薬以外に、健康食品とかハーブとかのようなものも含まれます。実はこのようなものの方が身体にやさしく効くことが多いのです。このことは、薬以外のいろんな治療法や健康法にもあてはまります。


安易に対症的な薬に頼る現代人は、自然治癒力が低下していると考えられます。高血圧や糖尿病と言った生活習慣病、がん、アトピー、アレルギーといった簡単には治らない病気が増えてきています。このような慢性疾患の場合は特にそうですが、安易な対症療法は、長い目で見た場合には良くない事が多いのです。

 

 自然治癒力を活かし、高めるために大切なのが、セルフケアの考え方です。
病気の治療には、他人に治してもらう方法と、自分で行う方法とがありますが、どちらかと言えばまず自己療法が基本であり、主体となるべきなのです。さらには、病気を治療するよりも、養生、予防のほうが大切です。


最近では少なくなりましたが、以前は「だまって言うとおりにしておけばよい」という医者の権威主義的な考え方がありました。逆に、患者の方も、「わからないのでお任せしておけばよい」と思っていました。皮肉な事に、医療トラブルの増加もあって、自分の病気と健康に関する勉強をされる方が増え、このようなことは少しずつ減ってきています。しかしまだまだ、「自ら治す努力」と「養生」をするより前に、すぐに症状のとれる薬や治療法を求める人が多いようです。


医者や治療家の仕事は、病気の診断、患者さんへの教育、そしてサポートです。医者がタバコをやめなさいと言っても、患者がそれをできなければ何にもなりません。リハビリテーションの場合などを考えるとわかるように、医者や治療家はあくまでサポーター、支えているだけで、治す主体はあくまで患者自身です。自らが病気を治す努力をし、ライフスタイルを改善する姿勢が基本なのです。病気になった時は、「ハイ薬」ではなくて、自分のライフスタイルを見直し、自然治癒力を高める生活をしてゆくべきなのです。昔からよくいわれる養生法を大切にしたいものです。

 

 

W:代替療法を活かす

 

 皆さんも、健康食品を食べたり、疲れたとき温泉でアロママッサージをしてもらったり、肩や腰の痛みに鍼を打ってもらったりしたことはありませんか。

 

 私たちが病気になって病院で治療を受ける時、今の日本でふつうに行われている診断と治療の考え方は、現代西洋医学に基づくものです。それは、近代以降急速に発達した科学的、分析的な考え方に基づいた医学で、病気の原因を分析して診断し、それに対する治療を行ってゆきます。

 

 一方、世の中にはこの現代西洋医学とは、考え方も方法も全く異なる医療、医学体系があります。このような医療は、現在の医療にとって代るものと言う意味で、まとめて代替医療と呼ばれます。また、現代の西洋医学では治療が困難な場合に、それを補うと言う意味から、補完代替医療という言葉で呼ばれることもあります。さらに、これらのいろいろな医療の考え方を整理し再構築しようという、統合医療という考え方も生まれてきています。

 

 代替医療と呼ばれるものには、古い昔から行われていた各国の伝統医学、またその考え方を応用し、そこから派生したさまざまな医学体系があります。大きなものとしては中国医学、インド医学(アーユルヴェーダ)、アラブ医学(ユナニ)などがあります。いずれも古くからの文明と宗教を基盤とし、体と心に働きかける独自の治療法を持っています。そして、心理療法、手技・運動療法、栄養療法、自然療法などに分類される各種の療法もあります。

 

 具体的な療法を挙げてみます。皆さんはどのくらいご存知で、どのくらい体験された事があるでしょうか? 漢方、鍼灸、あん摩・マッサージ・指圧、カイロプラクティック、オステオパシー、キネシオロジー、リフレクソロジー、セラピューティック・タッチ、レイキ、ハーブ、アロマセラピー、サプリメント、健康食品、断食、マクロビオティック、ゲルソン療法、心理療法、行動療法、催眠、バイオフィードバック、気功、ヨーガ、イメージ療法、瞑想、音楽療法、芸術療法、ユーモア療法、森林療法、温泉療法、タラソテラピー、温熱療法、エネルギー療法、ホメオパシー、フラワーエッセンス、・・・・その他、挙げ始めるときりがありません。

 

 重要な事は、これらの代替医療は、今の日本の医療における主流の考え方ではなくても、医療として成り立っている以上、何らかの効果はあり、近代科学に基づくエビデンスはなくとも、頭から否定するべきものでは決してないということです。代替医療の各々は、それぞれ独自の哲学と理論を持っています。この中には、日本ではほとんど知られていなくても、海外では健康保険が利く治療法もあります。アメリカでは、保険制度が日本とは異なるためでもありますが、こういった補完代替医療にかけられるお金が、現代医学にかけられるお金を上回ってしまったという報告もあります。

 

 現代西洋医学が手こずっている病気は、アトピー、アレルギー、がん、自己免疫疾患など、慢性的で、生活習慣が関与し、体だけでなく心も深く関与しているような病気です。このような病気に対しては、代替医療のほうが効果を発揮する事も期待できます。

 

 また代替医療は、全てがそうではありませんが、現代医学の治療法に較べて体に対する副作用が比較的少ないというメリットもあります。今までは、「古臭い、怪しい」治療法は否定されがちでしたが、これからの医療は、むしろその利点を大いに利用すべきではないでしょうか。西洋医学と代替医療のそれぞれの利点を知り、うまく活用してゆく事は、医療費の削減にもつながると思われます。

 

 ところが一方、残念ながら代替医療の中にはかなり「あやしい」ものが存在するのも事実です。典型的なのは、例えば健康食品で、「○○さえ飲めば、全ての病気が治る」といったたぐいのものです。このようなものの中には明らかに詐欺まがいのものがあります。病気という他人の弱みに付けこんで不当な利益を得ようとするのは情けない行為です。それが代替医療への信頼を損ねることになっているのは、大変残念なことです。

 

 まっとうなものと、おかしいものを見分けるのは難しい場合が多いですが、本当に良いもの、信用できるものは、地道に長続きしているはずです。高すぎるものはやめること。他の治療法をけなす治療家は避けるほうが賢明でしょう。自分の治療法の弱点、つまり出来る事と出来ない事をきちんと説明してくれる人、治療法の押し付けではなく患者の立場に立って考えてくれる人を選ぶことです。医者も色々ですが、代替療法家もいろいろ。治療者の品格を見抜くことも大事です。

 

 

D:もし、がんになったら

 

 働き盛りの方が、今最も気になる病気と言えば、やはり「がん」ではないでしょうか。二人に一人はがんになり、三人に一人はがんで死ぬという時代になってきました。ですから、がんはごくありふれた病気なのですが、がんの研究は進歩しつつあるにもかかわらず、わからないことがいっぱいあります。

 

 もし、がんと宣告された時には、その病状に対して、正しい知識を持つことが必要です。一口にがんと言っても、たいへん多くの種類があり、そのできている場所、性質、進展度合いによって、治療の方針は全く変わってきます。また、同じ場所、同じ種類のがんであっても、その後の経過が人によって全く違うこともよくあります。また最近は、がんの診断と治療にも次々と新しい技術や薬も登場しています。

 

 一方で、がんの代替療法もいろんなものがあります。特に現代医学ではもう手の施しようがないと宣告されてしまった、いわゆる「がん難民」の方にとっては、代替療法に頼るしかないというのも実情です。情報を集め、代替療法を実践されている方も多いと思われます。前回にも書きましたように、その効果や価値は一概には言えません。

 

 「現代医学の考え方にそぐわない」、「有効性の証拠がない」、と頭から否定するのも問題ですが、逆に手術などのきちんとした治療をすれば治る可能性が高いのに、それが嫌さに中途半端な代替医療に走って、治療のチャンスを逃してしまうというのも残念なことです。代替医療をやるからには、信頼できるものを、信念を持ってきちっとすることが必要です。

 

 そんな中でベストの治療法を選ぶためには、医療者とのコミュニケーションが必要です。がんは、医療者と患者が共同して立ち向かってゆかなければ、うまく対処できない病気だからです。私は、がんに対する理想の治療は、(今の医療のシステムの中では困難なのですが)現代医学の良さも、代替医療の良さも活かし、患者さん一人一人の特性や希望に応じた、オーダーメイド、テーラーメイドの治療ではないかと考えています。

 

 今、多くの人が持っている、一般的な「がん」のイメージは、次のようなものではないでしょうか。原因不明。確実に予防できない。どんどん大きくなる。不治の病・死の病。一旦病巣が消えても、再発や転移をする。早期発見・早期治療が全て。手術・放射線・化学療法(抗がん剤)は、こわい、副作用の多い、危険な治療法。三大療法で効かなければもう手の施しようがない・・・

 

 つまり、がんはとても恐ろしいもの、悪いもの、排除すべきもの、憎い敵、と考えられています。しかし、ホリスティック医学の立場から見ると、がんは少し違った見方ができます。

多くの場合、がんは、放っておくと命にかかわる重大な病気であることは確かです。そのため、一旦がんになると、どんどん進行する一方であり、自然治癒することはありえないと思われていますが、実はそうでもありません。

 

 私たちの体は、常に細胞が入れ替わってゆくことにより維持されていますが、その中では、異常な細胞、がん細胞は、いつも少しは発生していると言われています。ただそのような細胞は、ふつうは体の持っている免疫システムにより排除されてしまいます。しかし、このような免疫による防衛機構をすり抜けて増えてきたのが、目に見える形のがんなのです。

 

 ですから、免疫力がいろんな理由で低下すると、がんが発生する可能性が高くなり、逆に免疫力、自然治癒力がアップするとがん細胞は消えてゆきます。そして、ごくごく極めて稀ですが、進行したがんでも確かに自然治癒したという例があるのも事実です。それでは、なぜこのようなことが起こるのでしょうか?

 

 以前にも書きましたが、心と体というのは非常に密接な関係にあります。心の影響で体に病気ができる場合はいくらでもあります。実は、がんもそうだといわれています。心が生き生きとしており、よく笑っていると、がんの進行がおそくなる。逆に生きている目標がなくなり、絶望してしまうと、がんの進行が速くなるということがよくあります。

 

 最近は、心の状態が免疫力に影響を与えることがわかってきました。イライラ、抑うつといった心の状態は、がんを排除するための免疫力が低下するといわれており、逆に吉本新喜劇を観た後では、免疫力のマーカーのひとつであるNK細胞活性が上がった人が多いという研究報告もあります。ですから、心の在りかたで進行したがんが自然に治癒するということも、絶対にありえないことではないのです。

 

 このような、極めてまれな自然治癒を体験された方、そこまでゆかないまでも、大手術など大変な体験をして、がんから生還してきた方々には、「その後の人生が大きく変わった」と言われる方が多いようです。意外ですが、がんを体験し、がんから生還した人々の話を聞くと、必ずしもがんを「悪いこと」と思っておられないこともあります。

 

 がんになったことは必ずしも敗北ではなく、人生を見つめなおすためのチャンスであることも確かです。がんは、生きがいとか、本当に大切なものとか、死に対する考え方とか、そんなことを考えさせてくれる先生なのかもしれません。

 

 最後に、私の提唱する「がん」になった時のアドバイス「がんを生きる十二カ条」を記します。

 

  1. あきらめない
  2. がんばらない
  3. 自分のがんを知ろう
  4. 自分の病気は自分で治そう
  5. 助けてもらおう
  6. 笑おう・泣こう
  7. つながりを持とう
  8. 死に方を考えよう
  9. がんの意味を考えよう
  10. 人生を肯定しよう
  11. 勇気・祈り・希望
  12. 生き方を変える

 

 

 

【愛場庸雅  大阪市立総合医療センター 耳鼻咽喉科部長、日本ホリスティック医学協会理事】